不妊の検査について

不妊症のスクリーニング

③ 子宮卵管造影検査

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卵管造影検査について

卵管造影検査を説明すると「痛いですか?」という質問がとても多いです。ほとんどの人が痛いと思っているのではないでしょうか。インターネットで「卵管造影は痛い」という情報が出ているためだと思います。ここでは以下の質問について考えてみたいと思います。

卵管造影は痛いかどうか?

基本的には卵管に異常が無い限り痛くない事が多いです。それと、手技を行う医師の技量が関係します。卵管造影を痛くなく行うコツがあります。最初固定のためにバルーンを入れるのですがその際に少量の水を入れる事です。たくさん入れたらほぼ痛くなります。そして造影剤はゆっくり入れる事です。いきなりたくさん入れたら痛くなります。その際に患者さんとレントゲン画像を一緒に見ながら説明してリラックスさせて行う事もポイントです。そしてできるだけ少ない量を入れる事です。大抵は5ml位でわかる事です。たくさん入れると当然痛くなりますがそれだけはなく、お腹にこぼれた造影剤がいつまでも残ってしまい新たな炎症を起こす可能性があります。

卵管造影により何がわかるか?

卵管が通っているか、そうでないかがわかります。癒着についてはわかる事もありますが癒着の程度や場所などの細かい事はわかりません。またもし通っていないという結果が出たとしてもそれは確定ではなく、検査の時には通っていなかったという事です。「攣縮:れんしゅく」といって痛みなどで卵管が反射的に収縮してあたかも詰まっているかのような状態を示す事があります。

卵管造影に代わる検査としてどのようなものがあるか?

A通気検査
炭酸ガスを卵管に注入して圧を記録して通過性があるかを見る検査です。
B通水検査
生理食塩水を20ml程度注入して通過性を見る検査です。
被爆せず、腹腔内には生理食塩水が入るので副作用は卵管造影に比べると少ないです。ただ片側閉鎖は診断不可です。しかし卵管洗浄の効果もあり、症例によっては行う価値は十分あると思います。
C超音波卵管造影
レボビストという超音波造影剤を使用します。超音波を見ながら造影剤を流します。手技にコツがいるのと造影剤が高価である点がありますがこれも被爆しないメリットがあります。ただこれも細かい癒着まではわかりません。
D腹腔鏡検査
直視化に卵管を観察できるため得られる情報は他の検査とは比較になりません。しかも異常があった場合は同時に治療ができます。卵管の検査としては最強の検査と言えます。 デメリットとしては全身麻酔が必要、小さいものの傷が残る、1泊の入院が必要な事が多い、行う病院により技量に差が出てしまう等があります。

卵管造影をやるべきか?

検査結果が少しあいまいな感があります。通っていたとしても確実ではなく、通っていなかったとしても確実ではない。お腹に造影剤が残るし、しかも少量ですが被爆します。やるかやらないかは慎重に判断すべきです。結局のところはやるべきかどうかはケースバイケースと言えます。

ケース1

33歳、不妊期間2年間、基礎体温正常、生理も順調、精液検査異常なし、クラミジア抗体陽性。
この場合卵管造影はお勧めしません。腹腔鏡検査をお勧めします。なぜかというと、不妊の原因は卵管であると予想されるからです。卵管造影に異常が出る事は事前に予想されます。造影によりクラミジアを腹腔内へ拡散させる恐れもあります。腹腔鏡検査で癒着剥離を行うべき症例です。

ケース2

40歳、不妊期間2年間、基礎体温正常、生理も順調、精液検査にて乏精子症、クラミジア抗体陰性。
このケースでも卵管造影はお勧めしません。体外受精をお勧めします。なぜかというと不妊の原因は精子側にあり卵管は問題ない可能性が高いからです。余計な被ばくは避け、年齢も考慮し早く体外受精への移行をお勧めします。

ケース3

35歳、不妊期間1年間、基礎体温正常、生理も順調、精液検査異常なし、クラミジア抗体異常なし、腹腔鏡検査は希望しない、自然妊娠希望。
このケースではあくまで自然の治療を希望しているので卵管造影を行ってもよいと思います。
以上3ケースを示しましたが、3者3様です。要は一概には言えないという事です。自動的に全例に対して検査をする事は避けた方が良いですが、色々なケースがあるため現状を良く踏まえメリット、デメリットを話し合って検査をするかどうか決める事が大切だと思います。

卵管造影検査の副作用について

被爆

レントゲン写真を一枚(被爆量0.4mSV)とるのと比較し、連続で透視しながら撮影するため被爆量は多くなります。平均的な透視の時間は約20~30秒程度と思われます。その間にレントゲン写真を2~3枚撮影します。これで卵巣への被ばく量は大体2.1mSV位との事です。

疼痛

造影剤をゆっくりと入れたとしてもやはり痛みはあります。特に卵管の狭窄や閉塞がある場合には痛みがひどくなります。

腹膜炎

十分に膣内を消毒して、検査後も抗生剤を内服すれば腹膜炎の発生はほぼ抑える事が出来ます。ただ事前にクラミジア検査が抜けていたり、抗生剤を内服し忘れたりすると骨盤腹膜炎のリスクが出てきます。

アレルギー:ヨード過敏症

まれなケースですが造影剤によるアレルギーは注意が必要です。アナフィラキシーショックと言って生命にかかわる事もあります。

血栓症

油性造影剤が脈管侵入して血栓を起こす可能性があります。そのため脈管侵入が認められたらすぐに検査を中止する必要があります。

甲状腺への影響

卵管采から腹腔内へこぼれた造影剤は油性のため半年近く腹腔内に残存します。造影剤は主成分がヨード(ヨウ素)のため、一時的に体内のヨード濃度を高めます。ヨードは甲状腺ホルモンの材料であるとともに、多すぎるとWolff-Chaikoff効果のため、甲状腺ホルモンの産生を押さえ、一時的な甲状腺機能低下症を引き起こしてしまいます。

卵管造影をやらなくてもよいケース

卵管造影は患者さんから恐れられている検査です。できれば卵管造影をやらなくてもよいケースはあるのか?それはどういうときなのか?これについて考えたいと思います。
最初に検査に対する一般的な考えですが検査が無料で、副作用が無く、すぐにできるのであれば全ての検査をやった方が良い事は当然の事です。ただ普通はお金もかかるし、時間もかかるし、時には痛い場合や、副作用が出る事もあります。やらなければいけない検査は当然やるとして当面はやらなくてもよさそうな検査は省いても良いのではと思います。または他の検査を一通り終えた後、再度やるかどうかもう一度考える、それでも良いと思います。そういった検査の一つに卵管造影検査が入ると思います。以下の場合には、卵管造影検査を当面は省いても良いのではないかと思います。

  1. 重度の男性不妊の場合

  2. 諸事情により今後体外受精を考えている場合

1、2ともに今後は体外受精、顕微授精になるので、卵管を使用しないで妊娠しようとしています。卵管を使用しないのであれば卵管造影検査をする必要性はないという事になります。もちろん例外的ですが着床を阻害する恐れのある卵管水腫を除外診断したいというのであればやっても良いとは思いますが、卵管水腫を除外するために卵管造影をするというのは少し強引すぎます。

二人目不妊の場合

卵管に異常が無いから一人目を妊娠できたわけなので、異常となる可能性が低い卵管造影をあえてする必要はないのかと思います。こういうケースは卵管通水検査(ただ生理食塩水を流すだけ)で十分かと思います。通水検査なら被爆もせず、中に入るのも生理食塩水のため副作用は軽減します。

1~2年前に検査して異常なかった場合

前の病院で検査していて異常が無いのに、なぜかまたやる?というケースも見受けられますがこれも意味が無いと思います。一度やって異常が無いのであれば卵管は通過しているはずです。ただこの1~2年の間に何か変化があれば別です。例えばクラミジアに感染したとか、チョコレート嚢腫が出来てきたとか。そういうケースは卵管周囲癒着が出来ている可能性もあるため、過去に一度見ていても再度やる意義はあります。

今後早期に腹腔鏡検査を考えている場合

腹腔鏡検査では卵管通色素検査といって卵管内に青い色素を流し通過しているかどうか直接確認する事が出来ます。また同時に卵管内に大量の生理食塩水を流して卵管内を洗浄する事が出来ます。そのためあえて事前に卵管造影検査をする必要はないと言えます。

以上卵管造影をやらなくてもよさそうなケースを上げてみましたが、卵管造影検査は女性側のスクリーニングとしては最も基本的で大切な検査である事は間違いありません。要は「ケースバイケース」という事です。今までの不妊期間、経過、検査結果、治療歴を見て必要であれば当然やるべきだと思います。とりあえず今は必要ないのであれば先送りにしても良いのではと思います。

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